パナソニック スペシャル 次世代への羅針盤 伊藤元重の経済×未来研究所

第18回放送テーマ
3月27日(土) 夜8:00~8:55


「老舗企業の新たな挑戦~知られざる革新の歴史~」

2009年8月に、東京商工リサーチが行った調査によると、創業100年を超える長寿企業が、2万1066社に上ることが分かった。
調査対象から漏れた中小企業や、個人商店を含めれば、日本には、約10万社に及ぶ100年企業が存在すると推測されており、世界随一である。
サブプライム問題に端を発した世界経済の低迷について、巷間では「100年に一度の世界同時不況」と報じられている。しかし、日本の老舗企業が歩んできた道のりには、未曾有の大震災や、幾多の戦争、世界大恐慌などがあり、企業存続の危機に直面したのは、決して初めての経験ではなかった。
長寿企業は、どのような経営方針で立ち向かったのか?
危機を乗り越えるための「老舗ならではの知恵」を探ることで、今、目の前の経済状況を好転させるヒントを見つけることが出来る。今回、番組では、その様々なケースを紹介する。


「カミネ」
創業1906年の時計宝飾店。創業時は銀細工のかんざしや懐中時計とそのチェーンの小売をしていたが、1945年には空襲で店舗が焼け落ち、商品はもとより顧客から預かっていた修理品の時計や指輪も金庫の中で溶けてしまった。しかし戦後、預かっていた時計や宝飾品と同じものを探し回り全部、顧客に弁償したと言う。顧客との信頼関係が何よりも大事だと思ってのことだった。1995年の阪神淡路大震災の際にもまた店舗が被災したが、震災で休業している間も、神戸の人々はカミネを忘れず、店と顧客の幸せな関係は壊れなかった。2000年になるとカミネは、積極的なマーケッティング戦略で機械式時計のブームを巻き起こすが、自分が目の届く範囲での商いを大事にするという姿勢は崩していない。

「両口屋是清」
創業1634年、明治維新や幾多の戦争を乗り越えてきた、名古屋に本店を構える老舗和菓子メーカー。その名古屋の老舗が表参道ヒルズに「R style by 両口屋是清」をオープンさせた。手がけたのは、両口屋是清13代目にあたる大島千世子氏で、プロジェクトのメンバーは20代、30代の若手ばかり。自分たちが普段食べている、出来立てのお菓子の美味しさが伝わる店作りを目指した。益ありきではなく、和菓子の良さを伝えて和菓子に惹かれる人を増やすことが、めぐり巡って自分のところへ戻ってくる。「Rstyle」は和菓子メーカー本来の想いを体現しているのだ。

「勇心酒造」
創業1854年という酒造メーカー。創業100年を超える企業で一番多いのが造り酒屋だが、一方で醸造業界低迷の中、倒産が相次いでいるのも酒造会社だ。そんな中、大きく業容を変えて成功しているのが、この会社である。5代目当主、徳山孝氏の名刺をみると「社長」の肩書きではなく、「代表取締役農学博士」と書かれている。1970年代に、社業を継いだ徳山氏は「日本酒だけに頼っていてはダメだ。コメの新しい使い道を考えねば…。21世紀はバイオの時代。ならばコメから宝の山を引き出すべきだ」と考え、研究を重ね、ついにライスパワーエキスを開発する。今では、ライスパワーエキスから生まれた商品が売り上げの99パーセントを占め、清酒はわずか1パーセントに満たない。勇心酒造は、造り酒屋から日本型バイオのメーカーに劇的な変貌を遂げたのである。

「田中貴金属グループ」
田中貴金属は1885年(明治18年) 両替商「田中商店」として日本橋北島町(現在の日本橋茅場町)で創業し、その数年後に白金の工業製品の国産化に成功した。一般の人には「金地金」を売買する店という見られ方をするが、実は貴金属の精製・分析に携わるとともに、貴金属を用いた様々な工業製品の製造・販売に取り組み、時代の荒波を乗り越えてきた企業である。現在は、携帯やパソコンの中に入っている小さな電子部品など、金・プラチナをはじめとする貴金属を使った様々な工業製品の開発と生産を行っている企業として知られている。また、半導体を作る際に使う極細の金の糸である「ボンディングワイヤ」をはじめ、世界シェアナンバーワンの製品をいくつも世に送り出している。プラチナを使った自動車の排気ガス浄化装置や燃料電池の触媒、制がん剤など、ハイテク・医療といった最先端分野でも活躍している。

取材先
・カミネ
・両口屋是清
・勇心酒造
・田中貴金属グループ


ゲストコーナー

ゲスト:横澤利昌 (亜細亜大学 経営学部 教授)

早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。
亜細亜大学経営学部教授、ブリティッシュ・コロンビア大学客員教授を務める。
5000社におよぶ老舗企業を調査した実績を生かし、テレビ等、メディアで幅広く活躍。
著書に『老舗企業の研究~100年企業に学ぶ伝統と改革』(生産性出版)等。